◆準九番習(じゅんくばんならい)
その上にある「準九番習」とは、「花筐(はながたみ)」「弱法師(よろぼし)」「盛久(もりひさ)」「西行桜(さいぎょうざくら)」「山姥(やまんば)」「玄象(げんじょう)」「松風(まつかぜ)」「実盛(さねもり)」「接待(せったい)」の九曲で、これは平物の延長線上にある謡い方で、通用します。
例外は「接待」で、この曲は観世流では一度廃曲になった曲を復曲したので軽い扱いとなっています。しかし、他流では重習に近い重い曲です。
準九番は後から出来た免状なので、平物の中から難しい曲が選ばれています。そのために謡い方は「習物だから」と言う理由で謡い方を変えているような部分も見受けられます。
◆九番習(くばんならい)
ここから上の曲は、それぞれ独特の謡い方を必要とします。
「九番習」には、「藤戸(ふじと)」「俊寛(しゅんかん)」「大原御幸(おはらごこう)」「景清(かげきよ)」「鉢木(はちのき)」「隅田川(すみだがわ)」「遊行柳(ゆぎょうやなぎ)」「定家(ていか)」「当麻(たえま)」の九曲がありますが、これらの曲は、今までの平物や準九番の曲とは微妙に曲の設定が変わっています。
例えば、狂女物の中で唯一、探し求める子供が死んでしまっている「隅田川」。自らが殺生をして死後地獄に堕ちて苦しむのではなく、手柄を独り占めするための口封じに殺され、成仏できずに苦しむ「藤戸(ふじと)」。直面物や鬘物で全く舞がない「鉢木」「大原御幸」。・・と言った具合に、他に似たような謡い方をする曲がないのが九番習の特徴です。
◆重習
重習には「初伝」「中伝」「奥伝」「別伝」と、更に細かい分類がなされています。
初伝の曲は「神歌(翁)」「勧進帳」「砧(きぬた)」「求塚(もとめづか)」「乱曲上之巻(らんぎょくじょうのまき)」「梅」の六曲です。(梅若家と観世喜之家には「梅」がありません。)
中伝は「恋重荷(こいのおもに)」「望月」「起請文(きしょうもん)」「卒都婆小町(そとばこまち)」「木賊(とくさ)」「乱曲中之巻」の六曲です。
奥伝は「石橋(しゃっきょう)」「願書(がんしょ)」「鸚鵡小町(おうむこまち)」「道成寺」「乱曲下之巻」の五曲があります。
別伝は「鷺(さぎ)」「三曲(さんぎょく)」「檜垣(ひがき)」「姨捨(おばすて)」「関寺小町(せきでらこまち)」の五曲となっています。
◆披きの条件
これらの曲は玄人であっても勝手に上演することは許されず、師匠家の許しを得て初めて舞台で上演することができます。許可基準は特に定まったものではありませんが、年齢、芸歴、立場などで変わってきます。
上記の曲の中にも色々な制約がありまして、「神歌(能では翁)」の場合は、「翁」が楽屋内女人禁制のため、女性は還暦を過ぎないと素人の方でも免状の申請ができません。(六〇歳過ぎたら女として見ないということなのでしょうか?)玄人でも、女性の場合は翁が終わるまでは楽屋に入れませんので、当然やることも許されません。
玄人の場合は「翁」「石橋」「道成寺」の三曲は必ず通らなくてはならない道で、特に道成寺は、この曲をやって始めて一人前として扱われ、同門に於いては道成寺を披いた順に序列が決まるとも言われています。
「勧進帳(安宅)」「起請文(正尊)」「願書(木曾)」は俗に『三読物(さんよみもの)』と呼ばれていますが、曲そのものは三級で、読物の部分が重習の小書となります。もしも安宅に勧進帳の小書を付けなかった場合は、勧進帳を弁慶一人ではなく、ツレの同山と共に淡々と読むのだそうですが、一度も拝見したことがありません。
「望月」「石橋」は謡よりも、曲中にある舞の「獅子」が重習なので、扱いが重くなっています。物語そのものは平物と大差ないのですが、獅子があるために、重習らしい謡い方が後からできたようにも思います。
「鷺」は唯一16歳以下60歳以上という年齢制限がある曲で、人間は純真無垢の時でないと白鷺にはなれないと言うことのようです。特に子供の鷺は扱いが重く、玄人の子供であっても子供時代に鷺を披けるのは、職分家以上の家の長男のみと聞いています。また、鷺は真白な装束の曲ですが、完全に白一色にできるのは宗家のみで、弟子家の場合は必ずどこかに色を入れることになっています。
別伝の「檜垣」「姨捨」「関寺小町」を『三老女』と言い、最高の秘曲という扱いを受けています。昔は全部披かずに一曲は残すものと言われていましたが、最近では全部舞われた方もいらっしゃいます。
「重習らしさ」という物が曲の位や雰囲気を作り出していますので、このクラスの曲になればシテによって全く違う印象をうけることもあります。「何が正しい」ではなくて「らしければそれで良い」と言う考え方が強いので、色々なシテの舞台をご覧になることをお薦めいたします。
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