能は今からおよそ650年前に生まれた現存世界最古の古典演劇です。
しかもただ古いだけでなくその当時の台本・演出をそのまま伝え、能面・装束までもが今もなお実際の使用に耐えうると言う特殊な演劇なのです。
多くの演劇は、最初は斬新でも、社会が変わり、道徳・通念が変われば、やがて観客に飽きられ、新しい形態へ変わらざるを得ないという宿命を背負っています。
しかし能は650年もの間、舞台・台本・能面・装束・楽器・演出・作曲・振り付け・セリフの発声・発音まで、昔の面影をきわめて色濃く残し、ないしはそのまま 使用できる、という世界でもきわめて珍しい演劇です。
その原因は、数々の奇跡ともいうべき出来事によります。
後述の「能の歴史」「 能と日本語」でゆっくりお話しすることにしますが、
まずただの一演劇集団に過 ぎなかった結崎座が、将軍足利義満をスポンサーとしてGETしたこと。
また、能 ではなく新興勢力の幸若舞(人間五十年〜で有名です)を贔屓にしていた織田信長が天下を取れずに、能キチガイといわれた豊臣秀吉が天下を収めたこと。
さらに徳川幕府が能を武家式楽と定め、接待・饗応・儀式の公式芸能にした、という
ことが、重要なポイントです。
まあ今の日本人の殆どの人が「能は退屈で難解で、見たってしょうがない演劇」 と思っていると思いますが、当時(室町時代)の能というものは、流行の最先端を行く前衛演劇だったということを覚えておいて下さい。
この後の文章でその誤解を解きつつ能の魅力をお伝えしたいと思います。
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