前回まで曲の番目にこだわったので、ちょっと地味目ですが、装束も初番目脇能物からはじめましょう。
画像こちらに2枚あります。
◆「高砂」前シテの着付け
脇能物の前シテは殆どが老人です。代表的な物として「高砂」があります。
襟の色は「浅黄」でその上に「小格子目引厚板(こごうしめひきあついた)」を着る。下には「白大口(しろおおくち)」を履き、一番上に「茶 水衣(ちゃしけみずごろも)」を「浅黄緞子腰帯(あさぎどんすこしおび)」を使って肩を上げて着ています。頭には「尉髪(じょうがみ)」を結って付けています。
◇胴着姿
装束を付けてもらう時は、下着に足袋を履き、その上に「胴着(どうぎ)」を必ず一番下に着て、胴締め、胸布団、襟を持って装束の間に入ります。
胴着は羽二重の袷の間に綿が入っていて着る人の体型補正と装束に汗を通さないための「汗止め」の役目を果たしています。しかし綿入りのちゃんちゃんこを着ているようなもので、夏の薪能ではとても暑いです。
胴着にかける絹の掛け襟の色は「白」「赤」「浅黄(あさぎ)」「萌黄(もえぎ)」「朽葉(くちば)」「縹色(はなだいろ)」「紺」等、役に応じて色分けがあります。
老人(尉・じょうと呼びます)は基本的に「浅黄」で、身分が高い役や「小書」の時は「白・浅黄」の二枚重ねか「白・白」(翁)の組み合わせになります。
◇厚板(あついた)
狩衣(かりぎぬ)や法被(はっぴ)などの「表着(うわぎ)」の下に着込む事が多いため「着付け(きつけ)」と呼ばれる、女性用の唐織に対しての男用の装束です。柄が源氏車や龍の丸などの強い柄の物を厚板。御所車や枝垂れ桜などの柔らかい柄の物を唐織と言います。
高砂の厚板は、初番目の老人=神様の化身なので「格子(こうし)」を使い、五番目物の地獄の亡者のような老人は「無地熨斗目(むじのしめ)」を使います。「目引」と言うのは色の違う格子模様が入っている物で「華やかで目を引く」と言う意味です。
◇大口(おおくち)
「大口」は多くの曲に使われる袴で、白の他にも「緋(ひ=赤)」「紫」「浅黄」「萌黄」「紺」等の色があり、地紋を織り込んだ「模様大口」「紋大口」と言う物もあります。
元々は「鎧下(よろいした)」と呼ばれる下着のような物で、後ろ半分を「大口織り」といわれる、非常に堅い段織りに作ってハリを持たせています。
金属や固い皮で出来ている鎧をそのまま履いたら足が痛いので、厚地のステテコを履いて保護していた。その姿のまま陣中などで、座興に乱舞を楽しんだ事から衣装化されたといわれています。
大口を履くには「ばね」と言う、木で出来たY字型の道具を腰に差して、それに長い後ろを引っかけるようにしておしりにボリューム感を出します。子方の時はこの「ばね」を痛がって泣き出す子もいますので、小さいのやスポンジを貼ったものなどもあります。
◇水衣(みずごろも)
水衣は「糸圭(しけ)」と「糸妻(よれ)」があって、シテは大部分が「しけ」ツレは「よれ」を使います。
しけは目が詰まった平絹の織物で、よれは荒く織った物を手で掻き寄せて微妙な柄を作り出しています。色は作る側の好みで様々ですが、脇能のシテの場合は「茶」が圧倒的に多いようです。
◇「腰帯(こしおび)」
腰帯(こしおび)は、両端と真中に模様のある堅い部分のある帯で、装束を留めるために使う事と、単なる飾りの場合とがあります。
「緞子(どんす)」と「紋」の物があり、さらに地色の違いによって役に応じての使い分けがあります。尉の時は「緞子」と決まっていて水衣の色に合わせて取り合わせを決めています。(水衣が茶なら腰帯は浅黄が多いですが・・・)
◇肩上げ
「肩上げ」とは何か荷物を持っていて、仕事をする場合の腕まくりの様な感じで、両袖をたくし上げる事を言います。 「高砂」の場合はシテが熊手を持って松の下葉を掃き清めるので肩を上げており、中入り前に熊手を置くと後見が出てきて肩を下ろします。
◆「高砂」後シテの着付け
後シテは色々な曲が(装束が)ありますが、高砂では「紅白段厚板(こうはくだんあついた)」に「白大口」。上に「袷狩衣(あわせかりぎぬ)」を「紋腰帯」で着ます。頭には「黒垂(くろたれ)」を載せて「透冠(すきかんむり)」を被ります。
厚板はやはり祝言曲ですから華やかな色目の「紅白段」を。上に着る「狩衣」は単衣と袷、それと糸妻がありますが、単衣は「殿上人」や直面物のツレなどに使い、神様や天狗のような強いイメージのシテは袷を使います。
狩衣には「露(つゆ)」と言う紐が両袖と右肩に付いています。これは本来は仕事をするときに袖が邪魔にならぬようにたくし上げるための物と言われていますが、今は殆ど飾りとしての意味しかありません。
◆「翁」
翁は「翁狩衣」と言う専用の装束があり、後は柄や色目によっての使い分けになります。
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