能装束

1-能装束・序

 能の衣装を「装束(しょうぞく)」と呼びます。 辞書で「装束」を引いてみると「直衣(のうし)、衣冠(いかん)、束帯(そくたい)などの宮中での行事に使う衣装」等と書いてあります。そして引用例として「能装束など」、となっています。

 舞台衣装には、ひとつには、遠目でそれらしく見えれば良いという「使い捨てで充分」という考えがあります。 一度人の目に触れた衣装は二度と使わない。その代わりに絵面(えづら)としてそれなりに見えれば結構、と言う考え方です。女優さんの洋服やテレビのアナウンサーの方のネクタイなども同じだと思います。

 しかし、大名自身が演じた能には、「手にとって見ても立派な装束」を求めてきました。「最高・最上の物を丁寧に扱って、その装束が色あせ・すり切れ、最後に舞台で使われる時が、最高に美しい状態である」と言う、独特の美意識も生まれました。

 だいたい一枚の装束の寿命は100年〜200年と言われています。しかし、500年前の装束でも現存し、使おうと思えば着られないこともない状態を保っています。(ただ寸法はとっても小さいそうですが・・・) 江戸時代の大名は自らの富とセンスにかけて最高の物を追い求めました。 また、能装束に資金を注ぎ込めば、幕府から「軍資金をためて謀反の疑いあり」等という言いがかりをつけられることも防げたために、各大名がこぞって能に興じた(フリ?)と言う一面もあったそうです。

 そのため、西陣は世界に冠たる織物技術を開発しましたし、近世初頭の小袖とともに、能装束は日本の誇る美術品として、自他共に認められるものとなっております。きれいな着物や帯のことを「まるで能装束のような・・」というほめ言葉もあります。

 現代の能楽師も非常に苦労しながら能装束を維持し、新しい物を作り続けています。特に最近の若い人は背が高く、古い良い装束は着られないのが悩みのタネです。

2-能装束・分類

 能装束を形と性別、袷と単衣で分類するとこのような形になります。

「表着−おもてぎ」
 男性 袷−狩衣、法被、直垂、側次、厚板、唐織
 男性 単−狩衣、法被、直衣、水衣
 女性 袷−唐織、白練、厚板
 女性 単−長絹、舞衣、狩衣、水衣

「着付−きつけ」
 男性 −厚板、縫箔、白綾、熨斗目、小格子
 女性 −摺箔、白練、熨斗目

「袴」
 男性 −大口、半切、指貫、直垂、素袍
 女性 −腰巻き、大口、指貫、長袴

3-能装束・初番目脇能物

 前回まで曲の番目にこだわったので、ちょっと地味目ですが、装束も初番目脇能物からはじめましょう。

 画像こちらに2枚あります。

◆「高砂」前シテの着付け

 脇能物の前シテは殆どが老人です。代表的な物として「高砂」があります。
 襟の色は「浅黄」でその上に「小格子目引厚板(こごうしめひきあついた)」を着る。下には「白大口(しろおおくち)」を履き、一番上に「茶 水衣(ちゃしけみずごろも)」を「浅黄緞子腰帯(あさぎどんすこしおび)」を使って肩を上げて着ています。頭には「尉髪(じょうがみ)」を結って付けています。

◇胴着姿
 装束を付けてもらう時は、下着に足袋を履き、その上に「胴着(どうぎ)」を必ず一番下に着て、胴締め、胸布団、襟を持って装束の間に入ります。 胴着は羽二重の袷の間に綿が入っていて着る人の体型補正と装束に汗を通さないための「汗止め」の役目を果たしています。しかし綿入りのちゃんちゃんこを着ているようなもので、夏の薪能ではとても暑いです。

 胴着にかける絹の掛け襟の色は「白」「赤」「浅黄(あさぎ)」「萌黄(もえぎ)」「朽葉(くちば)」「縹色(はなだいろ)」「紺」等、役に応じて色分けがあります。 老人(尉・じょうと呼びます)は基本的に「浅黄」で、身分が高い役や「小書」の時は「白・浅黄」の二枚重ねか「白・白」(翁)の組み合わせになります。

◇厚板(あついた) 
 狩衣(かりぎぬ)や法被(はっぴ)などの「表着(うわぎ)」の下に着込む事が多いため「着付け(きつけ)」と呼ばれる、女性用の唐織に対しての男用の装束です。柄が源氏車や龍の丸などの強い柄の物を厚板。御所車や枝垂れ桜などの柔らかい柄の物を唐織と言います。

 高砂の厚板は、初番目の老人=神様の化身なので「格子(こうし)」を使い、五番目物の地獄の亡者のような老人は「無地熨斗目(むじのしめ)」を使います。「目引」と言うのは色の違う格子模様が入っている物で「華やかで目を引く」と言う意味です。

◇大口(おおくち)
 「大口」は多くの曲に使われる袴で、白の他にも「緋(ひ=赤)」「紫」「浅黄」「萌黄」「紺」等の色があり、地紋を織り込んだ「模様大口」「紋大口」と言う物もあります。 元々は「鎧下(よろいした)」と呼ばれる下着のような物で、後ろ半分を「大口織り」といわれる、非常に堅い段織りに作ってハリを持たせています。 金属や固い皮で出来ている鎧をそのまま履いたら足が痛いので、厚地のステテコを履いて保護していた。その姿のまま陣中などで、座興に乱舞を楽しんだ事から衣装化されたといわれています。

 大口を履くには「ばね」と言う、木で出来たY字型の道具を腰に差して、それに長い後ろを引っかけるようにしておしりにボリューム感を出します。子方の時はこの「ばね」を痛がって泣き出す子もいますので、小さいのやスポンジを貼ったものなどもあります。

◇水衣(みずごろも)
 水衣は「糸圭(しけ)」と「糸妻(よれ)」があって、シテは大部分が「しけ」ツレは「よれ」を使います。 しけは目が詰まった平絹の織物で、よれは荒く織った物を手で掻き寄せて微妙な柄を作り出しています。色は作る側の好みで様々ですが、脇能のシテの場合は「茶」が圧倒的に多いようです。

◇「腰帯(こしおび)」
 腰帯(こしおび)は、両端と真中に模様のある堅い部分のある帯で、装束を留めるために使う事と、単なる飾りの場合とがあります。 「緞子(どんす)」と「紋」の物があり、さらに地色の違いによって役に応じての使い分けがあります。尉の時は「緞子」と決まっていて水衣の色に合わせて取り合わせを決めています。(水衣が茶なら腰帯は浅黄が多いですが・・・)

◇肩上げ
 「肩上げ」とは何か荷物を持っていて、仕事をする場合の腕まくりの様な感じで、両袖をたくし上げる事を言います。 「高砂」の場合はシテが熊手を持って松の下葉を掃き清めるので肩を上げており、中入り前に熊手を置くと後見が出てきて肩を下ろします。

◆「高砂」後シテの着付け

 後シテは色々な曲が(装束が)ありますが、高砂では「紅白段厚板(こうはくだんあついた)」に「白大口」。上に「袷狩衣(あわせかりぎぬ)」を「紋腰帯」で着ます。頭には「黒垂(くろたれ)」を載せて「透冠(すきかんむり)」を被ります。

 厚板はやはり祝言曲ですから華やかな色目の「紅白段」を。上に着る「狩衣」は単衣と袷、それと糸妻がありますが、単衣は「殿上人」や直面物のツレなどに使い、神様や天狗のような強いイメージのシテは袷を使います。

 狩衣には「露(つゆ)」と言う紐が両袖と右肩に付いています。これは本来は仕事をするときに袖が邪魔にならぬようにたくし上げるための物と言われていますが、今は殆ど飾りとしての意味しかありません。

◆「翁」
 翁は「翁狩衣」と言う専用の装束があり、後は柄や色目によっての使い分けになります。

4-能装束・二番目修羅物

 今回は、二番目修羅物の装束の説明をしましょう。 画像がこちら にあります。

◆前シテの着付け
  前シテ(=能の前半のシテ)は、前回の脇能と同じ様な老人の役(ただし大口は履かず、着流しになる)が最も多いのですが、女性の役になるのが「巴(ともえ)」や「朝長(ともなが)」、直面(ひためん=シテが面をつけない)の若い男の役が、「箙(えびら)」「敦盛(あつもり)」等あります。

 女性の前シテは、唐織着流し(からおりきながし)ですので、三番目鬘物の時にご紹介いたします。 直面の場合は、段熨斗目(だんのしめ)に白大口、掛素抱(かけずおう)や無地熨斗目(むじのしめ)に水衣肩上げ(みずごろもかたあげ)という出で立ちになります。

◆後シテの着付け
  後シテは甲冑姿の武将ですから、みんな同じ様な形になります。厚板に大口 又は半切(はんぎり)を履いて、上には袷 又は単衣の法被(はっぴ)を着て、腰帯で前を止め、腰には太刀を履きます。(太刀は着けるとは言わずに履くと言います)

◇厚板(あついた)
  厚板は唐織と同じ織り方ですが、模様が男性的な強い柄で、地色も赤・白・萌黄・黒・紺等が使われます。 源氏車や龍の丸、平家の公達には花筏(はないかだ)や入小菱(いれこびし)等の柄もあります。
◇大口(おおくち)
大口(=袴のような物)は基本的に白ですが、模様の織り込まれた「模様大口」や、仕立ては大口と同じで、普通に織られた生地の中に後ろだけ茣蓙(ござ)を入れてある半切(はんぎり)を履くこともあります。
◇法被(はっぴ)
  法被には単衣・袷の区別と、肩脱ぎ(かたぬぎ)・肩上げなどの着方があります。 肩脱ぎは左の袖に手を通さずに畳んでくるくると巻いて背中に乗せます。これが靭(うつぼ・矢を入れておく筒)の形を表します。 肩上げは大将などの格のある役の場合に使われ、普段より大きい姿に見えます。

◇長絹(ちょうけん)
  曲によっては法被の替わりに長絹(ちょうけん)を使うこともあり、男長絹と呼ばれます。このときは胸に『露(つゆ)』と言う、房の付いた組み紐が附けられ飾りになります。平家の公達などの身分の高い武将の場合に使うことがあります。

◇腰帯(こしおび)
  腰帯も役によって模様を使い分けていて、源氏には笹竜胆(ささりんどう)、平家には揚羽蝶(あげはのちょう)が多く使われます。

◇太刀(たち)
 太刀も普段は特別な決まりはありませんが、柄巻(つかまき)の色が白は「屋島・弓流し」専用。 薄紫が「清経・恋之音取(こいのねとり)」専用と言う方もいらっしゃいます。

◇梨打烏帽子
 頭には梨打烏帽子(なしうちえぼし)を載せるので、鬘は「黒垂(くろたれ)」と言う物を載せます。老将の実盛は白垂になります。 梨打烏帽子は必ずどちらかに折れていて「左源氏に右平家」と覚えていますが人によってシテに向かってなのか、シテから見てなのかで意見が分かれます。

 特殊な物では「頼政」の頼政頭巾があります。

5-能装束・三番目鬘物

 続いて三番目鬘物に参りましょう。 画像はこちらにあります。

 三番目物は女性を主人公とする曲が大半で、多くは前シテが唐織着流し(からおりきながし)、後シテが緋大口(ひのおおくち)に長絹(ちょうけん)になります。 他には大口壷折り(つぼおり)や腰巻裳着胴(こしまきもぎどう)・腰巻に長絹等があります。 色目も若い女性の物は赤や金地、紅白段など(紅入=いろいり)で、年配の女性の時は浅黄、紫、紺など(紅無=いろなし)になります。

◇唐織(からおり)
 唐織は能装束の中でも最も豪華(高価!?)な装束で、袋帯と同じ織り方で作られています。ただし装束一枚を仕立てるのに、丸帯にして二本半分の生地が必要となります。(西陣の最高級袋帯二.五本分と言えば想像していただけるでしょうか?) 柄は草花を使った物が多いのですが、自然の草花を衣装としてデザインしたのは日本人が最初だそうです。中国でもヨーロッパでも、文様化したり幾何学的にデザインはしても、そのままの姿では使わなかったそうです。


 草花の唐織の柄の場合、草花のみが描かれている唐織は、庶民の女性の役に使います。 草花が、花籠に入っていたり、御所車に乗っていたりする柄は、高貴な役の女性が着る物となります。 鳳凰などは天女や楊貴妃などの日本人以外の役の女性と、大体決まっています。(例外はいっぱいありますが・・・) 大体というのは、どこの家でも全ての種類を揃えてあるほどワードロープが充実しているわけではないので、苦労して使いまわす事になるからです。ですからあまり季節感の強い柄や、印象に残りすぎる柄はお道楽になってしまい、なかなか作れません。

◇摺箔(すりはく)、胸箔(むねはく)
  唐織りの下には摺箔(すりはく)と言う着附けを着ますが、後シテが長絹の場合や全く違う着附けになる時は胸箔(むねはく)と言う物を身につけます。 摺箔は、繻子地に金箔や銀箔を漆で箔押しして、模様を附けた装束で、女性の場合は「素肌」を表します。 摺箔は汗には物凄く弱いので、最近では箔押しではなく、糸を織り込んだ織箔も使われていますが、舞台上で見ると金の色目が全く違うので出来れば摺箔を使いたいとは思っています。

◇長絹(ちょうけん)
  長絹は縦糸が細く横糸が太い糸で織られている装束で、紗のように薄い生地に、色々な模様が織り込まれています。色糸を使った豪華な物や単色で模様だけが織ってある物もあります。

◇露(つゆ)
  袖の端と袖の裏・背中に「露(つゆ)」と呼ばれる組み紐が着いています。これは紋露と袖露と言われ飾りの他に袖を翻すときの重りの役目を果たしています。胸には胸露と呼ばれる先に房の着いた組み紐が着きますが、修羅物の時は腰帯に飾り、女物は胸の前で結んで前に垂らします。露の色も赤・紫・黄色等があって長絹の色に合わせます。

◇鬘(かつら)
  頭には鬘を載せますが「馬毛(ばす)」と言われる馬のしっぽで出来た物を使います。 能の鬘は、色々な髪型、大きさの物を用意して頭に合わせるのではなく、一定の物を毎回楽屋で結い上げていきます。頭の形によって結いやすい人とそうでない人がいますので後見は結構気を使います。

◇鬘帯(かつらおび)
  面を着ける前に「鬘帯(かつらおび)」を結びます。これは蝶結びの変形で二本の端がピッタリ揃うように結ばなければなりません。 ただの飾りのようですがこういう小物が意外と目立つ上に数がないといけないのでどこの家でも揃えるのに一苦労しています。 腰帯や鬘帯でもきちんと手刺繍で作らせれば一本20万円は下りません。しかも一番汗で痛むのが鬘帯です。

 段々装束がだぶってきます。次回に狂女物や切能物で装束をまとめましょう。

6-四番目・狂女物、現在物

 いよいよ装束のお話も終わりに近づいてきました。画像がこちらに 2枚あります。

 この番目は「生きている人」と言うのが原則で、男性の役は老人以外には能面を掛けません。女性の場合は子供を捜す母親や恋人を訪ね歩く女性などの役が多くなっています。

◆現在物
 男性の役は武蔵坊弁慶などの僧形や山伏の出で立ち。歌占や蟻通などの神官。素抱男(すおうおとこ)と呼ばれる庶民の男性、盛久(もりひさ)や七騎落等の武将・公達などがあります。

 僧形の場合は頭に「寸帽子(すんぼし)」と言う頭巾を被り、山伏の時は「兜巾(ときん)」を被り「篠懸(すずかけ)」を身につけます。そしてこれらの姿の時は「数珠」が必須アイテムですし、水衣も縞模様の物を良く使います。

 素抱は上下の物と「掛素抱(かけずおう)」があり、掛素抱は白大口の上に着ることが多いようです。(色大口は特殊な場合) 上記の装束には小刀(ちいさがたな)もセットです。

 武将の場合は役に応じて色々ですが、軍姿は修羅物に準じます。盛久のように囚人となったときは、白綾(白装束)に指貫(さしぬき)や色大口を履きます。
 また、もう少し格上の「掛直垂(かけびたたれ)」もあります。

 腰帯も現在物の男性の場合は「白地」が決まりで、演出や装束の色目などによって他の色を使うこともあります。ですから「安宅」等のように大勢が一度に使うことがあるので白地の紋腰帯はかなりの数がいりますし、「鉢木(はちのき)」の「釘抜き」や曽我物の「胡蝶と千鳥」の二本組など専用の柄も結構あります。

◆狂女物
 女性の場合は旅姿が基本ですので腰巻に水衣で扇の変わりに笹を持つのが圧倒的に多く、後は唐織を肩脱ぎにした物、替えで腰巻に唐織を壷折(つぼおり)にした姿などがあります。狂女物の壷折は着流し姿で着物の裾をたくし上げた道行姿と言われています。

 能面は「深井」等の年配の女性が多いので装束も紅無(いろなし)が多くなりますが、曲によっては紅入と両用になっている曲もたくさんありますので「若女」や「増(ぞう)」も多く使われます。

 狂女が笹を持つのは常人と違う出で立ちをすることによって目立ち、探す相手が自分を見つけてくれることを期待するためと、狂女とは巫女なので昔は御幣が榊とは限らなかったので能役者が旅先でどこででも調達できた笹を使うようになったという説もあります。 (水無月祓のように笹に茅の輪を付けて御幣としている曲もあります)

7-五番目・切能物

 五番目は様々な役の設定があり全部はご紹介できませんが、代表的な物を上げていきます。画像はこちら にあります。

 まずは「雷電(らいでん)」や「殺生石」などの悪鬼・獣の精霊などの姿、法被の両袖を下ろして(ぞろ・と言います)、下には半切を履き頭には赤頭や黒頭を被ります。着附けも龍の丸や唐花などの強目な柄の厚板が使われます。

 法被を使う曲には袷法被を肩上げにして使う「船弁慶」の平知盛(たいらのとももり)の霊や「石橋(しゃっきょう)」の獅子などと、肩脱ぎに着る「天鼓(てんこ)」や「玄象(げんじょう)」などがあります。「ぞろ」に比べると全体にボリューム感が出て力強く見えるのが特徴です。法被の柄も修羅物の「七宝」「帆掛け船」等と違い「松皮菱(まつかわびし)」や「山道(やまみち)」などの強い柄になります。

 狩衣を使う物に「天狗物」があります。袷狩衣に半切を履き、頭の上には大兜巾(おおときん)を載せて天狗のシンボルである「羽団扇(はうちわ)」を持ちます。
 この羽団扇は鷹の尾羽根で作られており(雄の一羽分の無傷な物)現在では羽根が手に入らないので作ることが出来なくなっています。そのために本来はワキに向かって羽団扇を投げる型だったのが、羽根を折らないようにするために下に置いたり最後まで持っているように変わってしまいました。

 女性版では「般若」の面を使う「道成寺」や「葵上」。龍女の「海士(あま)」等があります。黒地に丸尽くしの柄の腰巻は般若とセットのような物で多く使われる組み合わせです。鬘は「本毛(ほんけ)」と言う人毛で作った鬘を使い、中入りでこの鬘を乱して(崩すと言います)能面を般若に替えます。

 「葵上」や「海士」では「泥眼(でいがん)」と言う面を使いますが、これは目に泥(金色)が入っているという意味でこの世の物でない印になります。ですから鬼の面や般若も目に金色が入っています。

 この番目は強い役ばかりではなく地獄の亡者や殿上人の役もあります。

 「阿漕(あこぎ)」や「藤戸(ふじと)」等は漁師として殺生をした罪で地獄に堕ちた男の幽霊。腰に付けた「腰簑」は漁師の証です。手には杖を持ち(阿漕は網)熨斗目の上により水衣を着て黒頭を被っています。

 一寸雰囲気が違うのは「融(とおる)」や「雲林院」などの「指貫物」と言われる曲。
 紅入の着附けに指貫を履き、単狩衣(ひとえかりぎぬ)に初冠(ういかむり)を載せてます。(おじゃる丸みたいな格好です)いかにも優雅に颯爽とした風情の装束です。


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